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【安曇野の山荘】
 
 
設計者 建築施工者 建築主
藤田辰男設計工房 (株)藤岡建設 中村 俊
 
■建築概要  
建設地 長野県大町市
木造
専用住宅
延面積 52.15m2
 
■審査評
 都心に住む夫婦のための週末山荘である。この山荘は、新宿から約260km。JR大糸線の信濃大町駅から車で15分ほどの北アルプス山麓を流れる高瀬渓谷の入り口に位置し、20戸ほどの別荘地の一角にある。協定で建物は66m(20坪)以内の規制があるためか小じんまりとして目立たない。樹木を分け入り近づくと南傾斜面に1.6mのコンクリート造高床の上に木造2階建て、屋根を南傾斜させ、外壁に地元産の信州からまつ張りにセピア色の防腐剤塗り、木製窓枠をアクセントとしたシンプルな外観だ。片流れのスレンダーな屋根、軒先は、軽快で自然豊かな背景に溶け込んでいる。
 冬季、マイナス20℃となる寒冷地。2mほどの積雪や四季を通して渓谷を吹き抜ける強風など厳しい自然への工夫が凝らされている。建物全体に十分な断熱材が
  挟み込まれ、内壁すべてを無垢の杉材や木製ペアガラス建具で長時間の暖房立上りの不便さの解消、太陽熱での融雪で雪下ろしの手間を省くなどで、別荘にありがちな寒さを感じさせない。
 1階と2階は、吹き抜けにより連続した仕切りのないおおらかな空間である。1階の中ほどL字型の漆喰壁を背に暖炉が設えられ、憩い・食事・仕事の場を無理なく隔てながら、桟敷のような2階ロフトと一体感がある。室内は、ほんのり杉材の香りが素肌に暖かさを感じさせる。風通し、ロフトの採光など明るく居心地の良い空間に仕上がっている。
 建物全体の構造軸組みにも無理がなく、しっかりした納まり詳細が見て取れる。ただ木材ゆえの外壁材の経年変化が気になるが、自然と共生しバランスよくまとめられていて優秀賞に値する。(福島 賢哉)