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東京建築賞選考委員会 委員長 鈴木博之
 第36回を迎えた東京建築賞は、質の高い建築賞としてはっきりと定着してきた。 これは応募作品数、そしてその応募作品群の作品の質の高さによるものであり、選考委員一同、応募者の熱意にこたえるべく、 今回もまた、真剣に書類選考、現地審査、最終審査での討論を行ってきた。 各部門ごとの入賞作品としては、それぞれ特徴あるものが選出されているが、ここであらためていくつかを振り返ってみたい。
 戸建住宅部門の入選作品は、音楽ホールを持つ住宅、都市への提言を含む住宅、高冷地での環境条件への挑戦を行った住宅と、 それぞれきわめて特殊な問題を丁寧に解決していったものであった。 建築家が関わってこそ解決できるかたちが、そこには提示されていたように思う。
 共同住宅部門は、毎回条件の厳しい中での企画のためか、選考に苦慮する場合が多かったが、 今回ははっきりとした企画性と完成度が認められる作品が多く、今回の収穫となった。 また、これ以外にも質の高い企画が多かったことも述べておきたい。 共同住宅部門は、厳しい条件下での建設企画とならざるを得ないことに変わりはないのである。 そうした条件下で、真に理想的な建築を実現するにはさまざまな難しさがある。 しかしながら実に懸命な努力の見られる作品が多くあることに印象を受けた。 ここ数年、着実にこの部門の質の向上がみられることを評価したい。
 一般部門一類の入賞作品は、設計密度の高さが光る作品ばかりであった。 学校、オフィス、工場、寺院と、それぞれジャンルの異なる作品が入賞したが、これは偶然に過ぎず、 個々の条件を丁寧に解決した作品が入賞したということである。 とくに最優秀賞となった「七沢希望の丘初等学校」は、地形を生かし、自然と環境を生かし、教育理念に応えた設計の質の高さが評価された。
 一般部門二類の入賞作品には広義のオフィス建築が多く見られるが、それぞれはかなり異なる。 最優秀賞と東京都知事賞を受けた「前川製作所新本社ビル」は下町の水辺に建つ建物であり、 社内のコミュニケーション、地域への対応、環境への配慮などを解決しつつ、気持ちの良いたたずまいのビルとして纏め上げたものであった。 また、「山梨市庁舎」は工場建築を市庁舎にコンバージョンした作品であり、 「乃村工藝社本社ビル」は、ディスプレイ会社という業務の特殊性に対してクリエイティブな雰囲気と構造性能を両立させていて興味深かった。 「東邦音楽大学70周年記念館」も、クリエイティブな環境づくりに関わる作品であった。
 すべての部門において、ルーティンワークではない挑戦が感じられる作品を選考できたことに、委員一同満足した。 こうした質が今後も維持されてゆくことを期待したい。