JR駒込駅に近い高台の住宅地に建てられたオーナー住居付きの賃貸型集合住宅である。
周辺は今後、容積緩和に伴い高密度な集住空間に変容し、現在の姿をとどめることは困難なことが予想される。
敷地はバウハウス出身の建築家山脇巌氏が50年前に設計した和風モダンの住宅と「離れ」、そしてタイトルにもなっている立派なケヤキを含む庭園や門扉が存在していた。
そこでこの計画のテーマは、要求される新しい建築の容積を確保しつつ、これら貴重な環境資産や記憶を次世代の集合住宅空間にどう活かしていくかという点にしぼられている。
ケヤキを含む前面の庭先空間を残し、母屋と接続していた「離れ」を切り離し、補修して保存しながら、その間をぬうように分棟型の絶妙な配置計画がなされている。 |
|
むくりのある屋根付きの門扉も敷地西側に移築され
「離れ」の門として活用されている。さらに旧住宅の応接室や茶室を、新築の共同住宅の中に移築し、集会室や接客スペースとして、再利用している。
このことによって、新築のみの集合住宅にはない時間の経過を感じさせ、落ち着いた佇まいを獲得している。
この計画は都心における価値ある環境資産を継承するための様々な手法として、保存、修復、移築、復元、転用、部材の部分活用などの様々な試みをとおして、こうした新築の集合住宅によって旧い環境が消滅することが多い都心部開発に対し、記憶を継承させる有効なモデルとなっている。
また、土や木といった自然素材を適切に使い、時間とともに変化しつつも上質な住空間が確保できるような工夫が随所に見られ、設計者の「時間をデザインする」意図が充分に読み取れる。(栗生 明)
|