高輪に立地する、グループ創設者の旧自邸である伝統的木造家屋の跡地に建てられた、グループ社員研修施設と一般開放された展示・図書館施設の複合施設である。
こうした由緒ある敷地において重要な設計課題とされたのは、ルーバーやガラスといった現代建築デザイン手法を用いて、周囲への視線のコントロールと地域環境との調和を目指してデザイン的な洗練を行うと同時に、貴重なタイル張りの塀、門、格式のある旧木造家屋や庭園などの歴史と記憶をいかに後世に伝えていくかということであった。旧木造家屋の伝統と記憶を保持するため、その一部を会議室として復元設計し、貴重な建築部材を内装の一部や家具として使用し、それ以外の多くの部材は保存された。また、庭園では樹木を一部保存しつつ、かつてのイメージを再現している。
全体構成で、中央に吹抜を設けて、自然光を取り入 |
|
れつつ、1階の地域に開放されたエントランス・ロビ
ーと図書館施設、2階の展示施設、それ以外の研修施設を、視線をつなげながら、動線的には巧みに制御することに成功している。研修施設では、テラスやラウンジを充実させて、講義的な研修ではなく、交流に満ちた自発的研修を促進する空間が生み出されている。
敷地直下に地下鉄が通り、地下9mまでしか利用できない、あるいは荷重面での制約もあるという条件下で、基礎免震構造および地下鉄通過時の振動測定に基づく防振構造を実現した技術的工夫も評価できる。
以上、この作品は、歴史・伝統の記憶と現代デザインの融合を図りつつ、周辺環境の質を高めることに貢献し、一般開放された展示・図書館施設と研修施設を質の高い建築として作り上げている。これらの点が高く評価され、一般二類の最優秀賞および東京都知事賞にふさわしい作品と判断された。(小林克弘) |