敷地はJR東口から、ほんの5分ほどの商店街の中。高いビルに南北をはさまれた東西に長いエアポケットのような環境は特異である。行き止まりのような路地を辿って、一歩敷地内に入ると、予想以上の明るさに満ちた住空間が広がっていた。大きな曲面屋根とガラス壁に包まれたこの家の第一印象は、まさに「ビルの谷間の白い家」のタイトルそのものであった。
既存建屋は、その法的条件を充分満たすことなく、暗く湿った閉鎖的なものだった。海外での住空間を体験しているクライアントは解放的で明るい、個性的な住まい方を望み、その強い意志を設計者はしっかりと受け止めながら計画を進めたという。
建物全体は明快かつシンプルである。軸線の中央に大きな天井高をもつ居間をおき、その両側は低い居室 |
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やサービス空間を配置している。その接続部には中庭や水場を点在させることによって、物理的には視線を透過させながら、精神的には結界を意識させる。平屋でありながら、生活空間に句読点を与えることに成功したといえよう。
高さとボリュームに差をつけた3つのヴォールト形状の屋根はこの建物の特徴となっている。大きな居間空間を覆う屋根は実際にはヴォールト構造ではないのだが、そういった詮索はここでは不要であろう。経年時の妻面の汚れも殆んど見られず、一年を通して内部環境も極めて快適だという。ディテールや設備といった配慮もゆきとどいた佳作である。
(斎藤 公男) |