箱根の温泉地強羅駅に程近い、保養施設や別荘の点在する比較的なだらかな東傾面にこの住宅はある。
建物は、傾斜した2千m2もの敷地をぐるり樹木で囲われた中に、基壇部分をコンクリート打放し、外壁を金属と小幅木板張りで2つの箱を繋ぎ、東面を大きくモロモの字の開口に、側面を閉じたシンプルな矩形をしたフォルムで安定感がある。斜面に沿って東西に配され建物の中央には、吹抜けの玄関ホールをはさみ、西側上段を2層、東側下段を3層とし、半層階ずらしのスキップフロアーとなっている。ホール吹抜けは、半階上のダイニング・リビングと空間的に一体化し、さらにプライベートとオープンなゾーンを上手く分け繋げることに役立っている。特にカルバート構造の採用が、無柱で自由度の高い空間構成の実現となり巧みで心
地よい。このことで眺望も西に早雲山、東に明星が岳 |
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、遠方に相模湾の望める絶景を1階リビング、2階主寝室から額縁状に深く張り出したテラスが効果的に引入れている。
傾斜地と眺望を重視した設計者の意図は充分発揮され成功している。地下1階には、世界的な和食料理人のオーナーの希望で様々な来客のために本格的な料亭を思わせるゲストルームや見晴らしのよい温泉浴室まであって小粋で楽しい。都会では望むべくもない620m2ものボリュームは、四季を感じる広い庭園とともに周辺環境に馴染み瀟洒な佇まいとなっている。明るさ、風通しも申し分なく、バリアフリー化や素材の長寿命化も追求され、丁寧なデザインと精緻な技術の結実した住宅で、秀作である。
(福島 賢哉) |