いわゆる下町という言葉から想像される情緒ある町並みでなく、工場(こうば)と住居の活気ある混在生活空間であった時代が過ぎ、
現在ではよりどころを見いだしにくい東京の“下町”において、
こうした地域における住宅のあり方に問題意識と提案意欲を持った設計者と発注者のコラボレーションによる住宅である。
密集市街地にあって防火観点から被覆されることが多い一方“下町らしさ”を“木造住宅”らしい表現として最大化する設計主旨と、
材の特性から建設資材としての市場需要が少なく荒廃の危機に瀕する森への社会問題意識から、カラマツ材の採用に強い拘りが持たれていた。
乾燥技術の向上をもってしてもあばれ、ねじれ発生が多いとされるカラマツ無垢角材等の構法検討の中では、
地元木材業者や技研の協力を得ながら、審査課との綿密なやりとり、評定、数度の確認申請提出を経て、
燃え代設計によるオリジナルの木質ラーメン構造が考案されている。
施主と設計者の統括による分離発注で施工され、設計スタートから竣工までに5年も費やされた。
5.5m間口の2mスパン柱梁構成に対し、梁に直交して150x120角のカラマツ無垢角材が敷き詰められ、この構成だけで構造体としての床版、
仕上げ、下階の天井すべてができあがっている。
躯体骨格の体感、周辺環境からプライベート空間のゆるやかな囲い取り、素材のもつあたたかさと本物さが丁寧に表現され、
道に面する車庫周りでは下町ならではのコミュニケーションを意図した空間も実現されている。
こうした真摯な取り組みは、材の特性に対する施主の寛容さや比較的高いコストなどあくまでも特殊解として実現しており、
材が直面する内外環境の整理や流通システムへの踏込など一般解としての普遍性へのさらなる展開もぜひ期待したい。(國分昭子)
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