この建物は和紙、襖紙の老舗のショールームと賃貸集合住宅の複合施設である。
4階までがショールーム機能で5階から12階までが住宅機能である。設計の優れている点は、このような低層部、
高層部が別のものと別れてしまいがちなところを、一つは江戸からかみという和紙の文化的コンテクストで、
もう一つは外部空間という二つの手法で巧みに結合しているところにある。
和紙文化のコンテクストでは、4階までのショールームでからかみ文化を堪能させられるが、この伝統的要素が壁紙、
障子、絵画などで上層部の住宅内部の空間作りにも使われ住む中で伝統を体験できる。外部空間は4階をゲストルームとして集会、
イベントなどが行われるが、この階は南、東部分が外部の空中庭園として開放的でかつ数寄屋の露地を思わせる空間作りがされている。
建物のほぼ中央にある白砂と石のコートと呼ぶ坪庭は、その上部の外部吹き抜け空間につながり、屋上の太陽光集光機から光が差し込み、
水平、垂直の空間を結び付けている。住宅高層階では4つの住戸ユニットを十字の廊下で繋いでいるが、
この手すりに和紙のようなテント生地を使い、内部的になりがちなシャフトも下の坪庭との関係が光で表現され、
常に下の和紙文化が感じられるところが秀逸である。
また、道路側のファサードも低層と高層部、外廊下と住戸ユニットなど普通では分割されそうな要素を和のデザイン要素である縦格子、
障子などを巧みに使いながら、つなぎ留め、建物全体として和紙の文化を「伝える」テーマで表現することに成功している。(中村勉)
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