長方形の敷地の3方を隣接した建築物に囲まれ、北側の道路に面した一辺のみが開放された敷地である。
その開放された面をできる限り大きなガラス面として、明るい事務所空間を創出することが、設計のメインテーマとのことである。
当然のことながら、開放したい北面の構造躯体のサイズは、小さければ小さいほどテーマに対してより効果的である。
そこで閉鎖的にならざるを得ない隣地側の3面に耐震要素を集中配置して、残る北面の躯体は鉛直荷重のみを支持する架構としている。
このため長辺方向は耐震要素の偏在による偏心量が多くなっている。さらに短辺方向の外壁面に沿って配置された耐震要素は、
少しでも広い事務所空間を確保する目的から、一方がRC耐震壁、反対側はS造のブレース架構とされている。
こうした一見不合理と思える構造に対して、積極的に取り組み解決策を見出している設計者の姿勢に好感が持てる。
床版荷重を支持する北側の架構は、その構成部材の小ささからカーテンウォールのように見える。
これ等の小さな構造材は、普通の圧延鋼材と鋼板でデザインされ、そのさりげなさにも設計者の工夫がうかがえる。
また事務室内はプレキャスト・プレストレストコンクリートST版を用いた無梁版構造として、低い階高でありながら十分な天井高さを確保している。
随所に設計上の工夫が積み重ねられ、全体的に明確なテーマ性が表現されている。また小規模ながらていねいな施工によって、
きめの細かい爽やかな建築に仕上がっている。各専門分野の抜かりない仕事ぶりが、大きな成果をもたらしている建築である。(金田 勝徳) |