100席の映画館、126席の寄席と、その共用施設、及び300m2の芸能学校の複合ビルである。
近年、斜線制限、天空率から導かれた形態を逆手にとって、容積を最大に、また、新規性をも出そうという多面体の建築が多い。
当建物は、外皮を構成している鋼鈑をモノコック構造とせず、各パネルを独立し、ズレを生じさせた表現に特色がある。
耐震性強化の役割も有する各パネルは、精度が要求される相互の取り合いが無く、施工性向上、ローコスト対応に応えている。
下部に位置するパネルは、上方のパネルより少し外側に持ち出し、雨水を受け、汚れ対策としている。
こうして出来たパネル間の黒色の溝は、フォルムに緊張感を与え、外光の取り入れ口ともなり、機能とデザインが融合している。
シンボリックな形態だからこそ、地面との接する境界が大事であるが、コストの制約か、犬走りの処理にもう一工夫出来ればとも感じた。
古本の街神保町では、戦前までの活気ある『芝居小屋の街』を復活させようとの機運がある。奇抜な形態は、
周辺との違和感を醸し出すのではと危惧したが、雑然とした町並に在って、却って再生の起爆剤的な役割を果たせるものと期待できる。
建築を金融資産としか評価しない風潮の市場経済下において、建物が社会的資産であり、
良好な街の発展に如何に寄与するかという観点でもその価値を計るべきであるという事を、
こうした建物により今一度考えなおす機会になればと思う。(北 泰幸) |