千葉県鎌ヶ谷市初富の西、貝柄山公園を見下ろす台地の縁に建つ瀟洒なたたずまいをもった家である。家の北側約2/3は欧州各地でチェンバロを演奏しているお嬢さんのコンサートが出来るように計画され、ピアノを弾かれる奥様、チェロを楽しまれるご主人とも、普段は公園を見下ろすホールで静かに音楽を楽しんでおられる。
白砂の敷かれた玄関前は屋根の水平線と板壁が静かな落ち着きを与えている。平屋の屋根が敷地いっぱいにのび、その棟から上にホールの大屋根がすこし突出し、下部では必要以上に長い小庇が全体の中心を引き締め、住宅のスケールを超えたゆったりした大きさで人を迎えている。木の縦羽目の壁は、玄関扉で透かし張りとなり、内部の光が漏れてくる。入口周りから丁寧なたたずまいで人を迎える空間が造りこまれている。
玄関を入ると、屋根の垂木の勾配天井と、ホールいっぱいに広がった3段の踏み板が、50cm低いホール床に目線を導き、外の9m低い斜面の林と池に誘いこんでゆく。公園の自然とホールが一体化して上質な森の中の文化的空間に一遍に誘いこまれるようだ。
開口部は丁寧に詳細が考えられ、障子が目線を遮らないように、角の柱も他の2本の柱と同じ見付けの細さ、135度の角度の中に納まっている。開口部にとりわけ神経を使って設計された縦横比のプロポーションや、戸袋、太鼓張りの和紙障子など、吉村順三氏の住宅や八ヶ岳音楽ホールを想起させるほどの完成度だ。和室とホールとの間の紙ボードの障子や欄間などもホールの光を和室でも感じながら、落ち着きをつくる効果を表現している。
静かな自然と対話する木質空間の中で、音楽のすばらしさが聞こえてくるようなレベルの高い空間に仕上がっている。
(中村 勉)
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