本計画は超がつく密集市街地に立地する。
地域の容積率設定は高く、メリット享受可能な一部の敷地では建て替えが進む一方、条件が整わない多くの部分では建て替え、
及びそれに伴う道路や街並みの整備は進みにくい。
その温度差は、互いに地域価値として共有し、各建物が空間的に街並みに対して寄与すべきビジョンの顕在化を疎外する。
敷地周囲の2項道路セットバックが未了で、車が敷地まで入ることはできず、工事上の苦労もしのばれるが、
それ以上にこうした街に住まうことに対する、建築家の都市的発想が際立っている。
設計者は、道路や通路の形で存在するわずかな空地の連続性を疎外せずに、
複数の軸線を集めながら建物壁面を構成することで広場状の空地をつくりだした。
この部分はもちろん敷地の一部であるが、車が入れない現状では駐車スペースですらなく、密集した中にぽっかりと浮かぶ、
パブリックな空地となっている。余りにも密なため、互いに背をむけての自分の領域の囲取りが主眼になりがちな都市空間において、
視線や風のぬけ道となり、子供たちの遊び場や近所付き合いのたまり場所にも発展しうる、このオープンスペース、
その背後にさりげなくこの家は建っている。
設計者の志、“まちに住む”ことの意味合いを共有し、こうした発想の集積がいつしか街の姿をかえることを夢見つつ、
ご自身方の暮らしを着実に歩まれている建築主のライフスタイルそのものが“まちづくり”といえることを実感した。
(國分 昭子) |