世田谷区等々力に位置する、築30年以上を経たRC5階建ての共同住宅を、
リノベーションすることによって見事に再生利用を実現した作品である。
リノベーションといっても、それこそ内装改修の簡易なレベルから、構造検討や外観刷新を含む、より本格的なレベルまで様々であるが、
本作品は後者の例である。元々はオーナーから、建築を残しながら使いたいという要望があったとのことだが、
このリノベーションの実現に際しては、既存構造体の強度チェック、重量を軽減するための壁の撤去、低層部での構造補強、
共同住宅階段室にゆとりを持たせるための隣地買収及び小規模増築、外観を現代的デザインに刷新するための工夫など、
多くの建築的知恵が絞られている。周知の通り、リノベーションに関する法的な整備や確認申請上の手続きなどは未整備な点も多く、
それ故、行政との個別の綿密な打ち合わせが必要になるが、設計者は極めて根気強く打ち合わせを重ねて、本作品を実現している。
また、リノベーション建築に対する融資を確保するという、大きな難関も突破している。
こうした熱意ある取り組みがあったからこそ、現代的な共同住宅として蘇らせるという建築ストック活用が実現できたのである。
日本の都市には、このようなリノベーションを適用すべき小規模中層共同住宅が無数に存在している。
本作品は、その可能性を開拓し、質の高い本格的なリノベーションを行った作品として特筆に値するし、設計者の努力は称賛に値する。
これらの点が高く評価され、共同住宅部門奨励賞に選ばれた。(小林 克弘) |