住宅に入らせていただいた瞬間から心地よい空気に身体が包まれ、「よそのお宅」におじゃましているとは思えない感覚を覚えた。そして設計者から解説をうける中で、使い手に寄り添った視点と思考の積み重ねによって、住空間としてある普遍性を獲得する域に到達していることを確信させられた。
ごく一般の人が土地を買い、すでに住んでいる人がいるまち空間にsettleするとはどういうことか、この都市へのまなざしから考察されたボリュームと空間構成にはじまり、仕切りやレベル差などのしつらえ、生活の中で肌に触れるあらゆる素材の質感にいたるまで、すべてが同様に濃い密度のあたたかい視線といきとどいたスタディによって組立てられていた。これからクライアントが長きにわたって使っていくであろう空間に対して一時点のライフスタイル想定のもとで空間を決めこむのでなく、日々、季節や使い手の発想、構成員や年代による利用形態の変化が予測される人の営みを許容し、かつ全体として設計者のひとりよがりな作家性に陥ることなく調和した均衡が実現されている。改めて空間というものの力を認識すると同時に、実力と柔軟さを兼ね備えたこうした若い設計者の活躍の場がひろがるような社会と建築業界の関係性向上の必要性を考えさせられた、真に秀逸な作品であった。
（國分 昭子） |
