世田谷区はしばしば「道が狭くて分かりにくい」と形容される。そのことを体現するかのような街並みの中、間口5m、奥行き16mの敷地に建てられた住宅である。周囲に同じような規模の住宅が密集した敷地は、道路幅の関係でほとんど車の往き来もなく、静かな環境にある。しかし住み手が声優であることから、この住戸は昼夜を分かたず豊かな声量が発せられる稽古場でもある。その時の音圧レベルの高さは素人の想像を絶するという。
これ等の条件を前にすると、必然的に外壁の面積のほとんどがコンクリートの壁で覆われた、細長い長方形の箱の家にならざるを得ないように思われる。
いきおい設計者の想いは内部空間のあり方に込められることになる。敷地幅の制限による平面的な細長さから、屋内には階段以外の通路はほとんど設けられていない。従って人の平面的な移動は、田の字ならぬ目の字状に並べられた部屋を通って次の部屋へということになる。それらの各部屋は、微妙なレベル差と巧みにコントロールされた外部からの光によって、変化に富んだ空間となっている。さらに、それぞれの部屋は違った仕上材で仕上げられ、住む人は部屋毎に展開される空間の連続性を楽しむことができる。平面形状からすれば単調になる空間構成に、それぞれ納得のいく変化を持たせつつ、ひとつの家に統合する設計者の力量は高く評価したい。よってこの住宅は戸建住宅部門の優秀賞にふさわしい作品と判断された。
(金田 勝徳) |