この作品は昭和の初期に設立された歴史のある聖母病院の聖堂で50年以上にわたり地域住民のこころの拠り所たされてきた施設の建替えである。メディカルケアの一助となる精神的な癒しを担うものであり鐘の音と共に住民に親しまれてきた聖堂で、南北に長い敷地の西側隣地に面し、東側が病院で西側が崖下の住宅地という配位置条件にある。
この様にあまり恵まれない敷地条件のもとで、西側が高い片流れ形態の屋根を採用し既存を利用したステンドグラス越しの太陽光を巧みに取り入れて壮麗で厳粛な雰囲気を醸し出している。また、スパン15メートルを超えるその屋根は試行錯誤しながら考案した折れ屋根のボイドスラブとしてたわみやひび割れを抑制し、端部の応力を折れ壁ボイド構造にそのまま伝達し受けとめる特殊な構造となっている。
内部空間は天井の折れ屋根を直接見せて自然の動きが光と影になって祈りの空間を演出している。壁はセメントスタッコを、床は無垢のフローリングを使用して時間の経過とともに趣が増し永年の使用にも耐ええる仕上げとなっている。また、壁ボイド構造を利用して空調ダクトとし天井部の熱たまりを夏は排気し冬は再利用して床から噴出させ、そして、中間期には壁にさりげなく設けられた開口部により自然風を呼び込んで室内環境に配慮した計画になっている。このように、この作品は随所に工夫を凝らし組織を上げて意欲的に取り組んだ秀作である。
(西倉 努) |