東京都千代田区に建つ、築後約40年のペンシルビルのリノベーション作品である。既存建築は、間口4.6m、奥行き8.5m、地下1階・地上6階建ての事務所併用住宅であり、完了検査済証未取得の状況であったが、コア抜きによるコンクリート強度や中性化の確認を行った上で、「耐震改修促進法」に則った耐震補強を含むリノベーションを行っている。
階数の多さおよび限定された開口部の制約の中で、いかに快適な居住環境を生みだすかが大きな課題であった。3階をリビングダイニング階とし、4階は鉄骨梁による補強を行いつつ中央部の床を減築して吹き抜けを設け、その周辺に書斎を配することで、3階に生活の中心となる空間的な広がりと自然光による明るさを獲得することに成功している。その上で、5階に主寝室、6階にルーフテラス、2階に客室という階構成とすることで、日常的な階移動を合理的なものとした。
耐震補強に際しては、一番奥の壁でのコンクリートの増し打ちと1〜3階での道路近くの鉄骨ブレースの組み合わせを採用して、鉄骨ブレースを採光面・デザイン面で生かしている。外観は最低限の補修にとどめているが、内部空間全体に渡って、新たに挿入された要素と既存要素を対比的に共存させ、随所に巧みなデザインセンスが見られる。
総じて、この作品は、都心部に数多く存在するペンシルビルという建築ストックを生かしていくための建築的工夫に、若い情熱をもって真摯に取り組み、適切な改修設計手法と優れたデザインセンスによって全体をまとめることで、今後の建築ストック活用の促進に大いに貢献できる作品に仕上がっている。この点が高く評価され、戸建住宅部門の最優秀賞にふさわしい作品と判断された。
(小林 克弘) |