社団法人　東京都建築士事務所協会 東京建築賞【第39回建築作品コンクール】HOME

【Ｌｅ　49〈ル　シック〉】

　この作品は神奈川県鎌倉市の、いわゆる鎌倉山と呼ばれる住宅地のなかに建つ戸建住居である。クライアントは若いご夫婦である。

　敷地は不整形であり、南側は大きく下がっている。つまり北側道路から入る南側が崖になった場所である。こうした不整形な土地を生かして住宅を生み出すことは、建築家にしかできない技であろう。特殊解としての戸建て住宅の例である。

　敷地の形状と南斜面の眺望を考慮して、一階には寝室や浴室などの水回り、そして奥様のための工房的スペースが設けられる。工房的スペースには囲われた庭が設けられており、ここには閉じた心地よい場所が生まれている。それ以外の寝室などは周囲の影響を遮断する閉鎖的な構成となっている。

　一階の玄関を入り、二階への階段を上ると、そこにはオープンな一室空間が開ける。ここにキッチンとダイニング、居間が収められている。周囲は開放的に窓が開かれており、眺望を楽しめる。とりわけ南側には、高みから眺める湘南の海が心地よく広がる。部屋の形状は建物の形状そのままに不整形であり、それは敷地の形状を示すものでもある。天井も緩やかな傾斜の屋根をそのまま見せるものであり、自分がいる住まいをまるごと感じられる。

　この住宅は、周囲に対しては沈み込むように建てられており、決してアグレッシブではない。鎌倉山は敷地の大きい大邸宅が並ぶ住宅地であり、この住宅の隣地も典型的大邸宅であるが、それらとうまく共存したこの住宅の建ち方は、望ましい戸建て住宅のあり方のひとつを示しており、奨励賞にふさわしい。

（鈴木　博之）