|  自然環境に恵まれた敷地に建設された高齢者のための70軒の「終の棲家」である。  コンペで選ばれた作品を実現化したものだが、心身ともにまだ健康な高齢者が入居するにあたって一年以上、居住予定者とのワークショップを繰り返し、様々な改良が加えられている。  このワークショップは、計画・設計内容の検討に終わらず、使用木材の伐採現場や工事現場の見学会、専門家を招いての地元の自然植生の学習や、豊かな自然環境の中での夜間の照明のあり方の学習など、きめ細かいプログラムが組まれている。  このことによって、居住者の住まいや住まい方に対する希望を計画に取り込むのはもちろん、自然環境の中で高齢者が集まって住むための、「知識やマナー」を学ぶ機会としているなど秀逸である。当然のことながら、居住者・設計者・運営管理者の相互理解を深めると同時に居住者間のコミュニケーションの増大に役立っている。  配置計画をみると12〜18戸の単位でグルーピングされた住居群は共有の中庭を持ち、この中庭に面してエンガワドマと呼ばれる玄関がそれぞれ配される。住棟を振ることで、微妙に視線ずらしながらもお互いの気配を感じることで孤独が癒され安心感が醸成される。さらに、食堂・図書室・音楽室といった共用室やディルームが適切に組込みこまれることで、集まって住む生活の楽しさが想像される。  建築に関しては建設コストを抑えながらも、地場産の杉材の肌触りを重視した居住性能の追及はもちろん、廃棄物の抑制を意図した工法をとるなど合理的で説得力のある設計になっている。  入居後の居住者の趣味や特技を活かした仕事やハウス内通貨の活用など、超高齢社会を迎える日本にとって、高齢者居住のハードとソフト両面でのひとつのモデルになり得ている。 (栗生 明) |