閑静な住宅地に建つ賃貸集合住宅である。 大企業が収益上不要となった小規模施設や用地を売却処理した場合、売却後の小規模用地はその規模や法的難易度から、ミニ開発か規格型住宅によりチープな環境となった「フロー建築」に置き換わっていくことが多い。この敷地も同様の条件を備えたものであるが、同時期に同じ企業が所有する他の敷地の開発(THROUGH)と平行して計画することで、健全な事業収支計画の伴った魅力ある「ストック建築」に生まれ変わらせることに成功している。 地上3階地下1階の分節型配置は周辺環境に違和感なくなじみ、良好な街並み景観を作り出している。4分割された住戸マッスは先端梁を持たない壁式構造の採用で前面ガラス張りのファサードを可能とし、シンプルで品格のある表情を作り出している。 一方、4つのマッスを繋ぐ十字型廊下は住居に至る公道のイメージで計画され、廊下のエンドの処理と木製デッキ仕上げにより、解放的で居心地の良い空間になっている。南北ドライエリアは城郭建築の堀のような効果を持たせ、セキュリティ確保のバッファゾーンであると同時に室内空間の延長として気持ちの良いプライベートエクステリアとなっており、地下住居の閉塞感を感じさせない。 アルミの厚板を加工した洗面やシンクは独自の工夫がこらされ、既製品にない存在感を持っているが、これも二つの敷地を同時に計画し同じ仕様の住宅戸数ロットによるコストダウンにより実現したものである。 この敷地ならではの配置計画と「ムリ、ムダ、ムラ」のない建築計画で、気持ちの良い緊張感を持った賃貸集合住宅になっている。 質のよい居住空間は居住者に良い影響を与えるのか、居住者のマナーも良く、汚れも少なくメンテナンスも行き届いていた。
(栗生 明) |