東京近郊の中核都市に建つ歯科診療所である。鋭角に交わる公道の角の平坦地に位置し、平屋で二層に色分けされた外壁が緩やかな曲面を描き印象的だ。遠方から駐車スペースと芝の植え込みでなだらかな丘の上に建物があるような錯覚にとらわれる。コンクリート打ち放しに櫛状の窓の外壁が黒に塗られた屋根部分のボリュームを消す効果で浮き上がらせ、視認性を高めている。 歯科医院では、患者、スタッフの動線が輻輳している例も多い。ここでは、大規模病院外来診療部のような動線分けがなされ、それぞれを分離し、歯科ユニットへのアプローチにすっきりとした流れがあり清潔感がある。 閉鎖性が強い室内は、木造の屋根部分の表出された米松の梁、垂れ壁の合板素地や自然採光のある天井が、ゆたかで柔らかい光に満ちた圧迫感のない落ち着いた温かみのある内部空間を形成している。 待合や、外来廊下に開けられた中庭が一層内外を融合させ居心地の良さが醸し出されているし、室内環境では、懐のある天井高さを空調の吹き出しや換気に使うことで効率的で心地よい。 特に患者にとって歯科へは仕方なく出向くところから、不安感を払拭し安心感のある診療空間が求められる。本作品は、外観への親しみやすさに一工夫が欲しいが、内部空間は、見事にそれを読み解いた優れた作品であり、周辺のまちなみや環境にも馴染む作品で設計者の努力を高く評価したい。 (福島 賢哉) |