駒込の六義園近くにある東洋学の専門図書館・研究施設である。三菱第三代当主岩崎久彌氏が大正13年に創設した、アジア全域の歴史と文化に関わる膨大な資料を有する施設で、90年近く増改築を繰り返し、今回全面的な建て替えとなった。研究機能を生かしながら建て替えなければならないという制約を逆に活用し、オアシス的な中庭とカフェを新たに生み出し、一般の来館者にも魅力的な施設として再生することに成功している。本来は研究者向けの施設であるが、建て替えに際して、東洋学の普及に力を入れたいという施主の意向を受けとめ、研究者用施設と、一般人向けの空間を並立させるという命題を、巧みな平面・断面構成と高度な技術力を駆使して見事に解決している。特に、2層吹き抜け空間に3層3面の文庫を並べ、研究者用の書庫を、敢えて一般の人に見せる工夫は、研究活動への理解を深める事に貢献している。その他、徒然草の装丁に使われている透かし模様をモチーフにし、文庫を象徴したというマッシヴな外観に、「東洋文庫」の文字を手彫りしたテラコッタタイルを嵌め込む等、随所に「東洋」を感じさせる仕掛けが施され、設計者の隅々迄にわたるこだわりが感じられ、当賞に相応しい建物である。
(北 泰幸) |