39回を迎えた東京建築賞は、これまで各分野を通じて、最優秀賞受賞作品の中から選ばれていた東京都知事賞を独立させたところに、大きな変更点がある。これまでのように、それぞれの分野での受賞作品を選定してから、改めて東京都知事賞を選ぶのではなく、まず、第二次審査(現地審査)対象作品の中から東京都内に建設された作品の内、都市環境の向上への寄与など、都知事賞にふさわしい質を備えた作品を選定し、ジャンルから独立して受賞先品を決定していった。こうしたかたちで東京都知事賞を独立させることができたことは、結果的には入賞作品数を増やすことになり、また、都知事賞の意義を独立したものとして公表できることになった。今回、東京都知事賞受賞作となったのは一般二類に応募された、「江東区立有明小学校・中学校」である。高速道路に接する極めて過酷ともいえる都市環境のなかにあって、敷地内部に多彩な場所を作り出し、変化と多様性に富んだ学校生活の場を作り出していることが評価されたものである。
その他応募作品全体を見てみると、戸建住宅部門13点、共同住宅部門17点、一般部門一類17点、一般部門二類13点、計60点であった。今後、応募作品がその数を維持し、水準を保ち続けることを期待したい。
各ジャンルの応募作品を、審査委員が手分けして第二次審査(現地審査)に赴き、設計者から説明を受けて見学を行い、その結果を持ち寄って、最終審査会ではそれぞれの作品が丁寧に紹介批評され、合議制に立って入賞作品を決定してゆく。この審査プロセスは毎回基本的には同一であるが、今回の議論では、都市環境の向上への寄与という点に、多くの委員の視線がそそがれていたように思われた。
難しい条件のもとで計画された建築物、市場価値との闘いのなかで生み出された建築物など、努力の後の感じられる作品が多かったが、それらがわれわれの生活環境にどのように寄与できているか、その作品が今後の建築に参照例として、好ましい存在となるか、などが議論された。
戸建住宅部門の最優秀作「お茶の水リノベーション」は、都心に立つ小型ビルの再生という点で、普遍性をもつと思われたし、共同住宅部門の最優秀作「ゆいまーる那須」もまた、将来のコミュニティ形成にとって普遍性をもつ計画と評価された。これらは建築の長寿命化、われわれ人間の長寿命化に、それぞれ対応した建築的解法の試みと言えるかもしれない。
一般建築部門では、建築の質の良さが評価されたものが多かった。一類の入賞作品「中央区の公衆便所」「小林歯科医院」、二類での入賞作品「桐蔭横浜大学 大学中央棟」「東洋文庫」などは、設計の完成度が感じられるものであった。そうしたなかにあって、一類の最優秀作となった「日本文化大学メディアセンター」、二類の最優秀作となった「明治安田生命新東陽町ビル」は作品の完成度と周囲の環境への貢献などに配慮が感じられるものであった。
今回の入賞作品には、教育施設が多く見られたが、これはあくまでも結果であって、ジャンルによる差別は無論おこなってはいない。しかしながら、建築の種類によっては、市場原理が設計条件を強く支配する場合があることも事実である。賃貸ビルや分譲マンションの企画には、厳しい条件のもとに組み立てられるものも多い。そうした中でも、ある種の理念が追求されることを望みたい。そうした努力の積み重ねが、ここの企画の効率化を超えて、われわれの生活全体の質の向上につながって行くだろうと思うからである。
東京都知事賞が独立して選考されるようになった背景には、こうした都市環境向上への期待が込められているのである。今後とも東京建築賞が、多彩な応募作品を迎えて、実り豊かな成果を得られることを望みたい。
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