ゆとりある敷地条件とプログラムのもとで計画されたご夫婦のための住宅である。オーナーからのご要望である、生活を楽しむ自由さを獲得するための空間として設計者が計画したのは、室として設定される目的や用途という概念から離れ、室内と屋外を区別する感覚さえ失わせるほど自然にひとつづきに連続し、ゆるやかに変化する空間である。季節と時間によって表情が移り変わる雑木林の中庭の配置、すこしずつ変化する床レベルと3次元的に変化する木天井の構成、住むことにより派生する生活感を無理なく視覚の外にもちこむ機能性、ディテール等、設定されたテーマを実現する確かな力量が随所から感じられた。
住み手の住まいに対する希望、一定のタイムスパンにおける生活の想定、金銭的条件など、住宅の設計における様々な条件への応答としての設計者の着想、テーマ設定、それらを実空間として実現する能力は、今回の応募にて選外となった設計者の作品を含めて大変高い評価を得た。
設計者はこの空間を街路になぞらえているが、街路とは個々の主体が用意された空間を楽しむだけのものではなく、多種多様な人と都市社会の関わりにおいてはじめて成立するものである。個々の生活における充足感を与える存在としての一戸の住宅も、都市における建築であり、周辺の環境およびそのまちを生活の場として行き来する人々になにがしかの影響と作用をもたらす存在ともなり得る。そして住まい手は、その場所を選択しそこに暮らすことを表現する都市生活者でもある。今後の活躍が予想される設計者に、より多様な視点の取り入れと更なる進化への期待を込め、本作品が最優秀とされた。
(國分 昭子) |