敷地は武蔵野市の住宅地の一角にあります。しかし、一歩敷地に踏み込むとあたかも森の中に迷い込むような緑に囲まれます。
これは木々の間に、小さな家型が寄り添うように凝縮した長屋形式の集合住宅です。
オーナーはご主人がインド人、奥さんは日本人で、お子さんがいます。インドでは家を建てる際に自分の家と同時に、貸家をいくつかつくる風習があるそうです。
その風習に習い、この建物はオーナー住居と6つの貸家の複合として計画されています。
親密なスケール感と開放感、住民によって共有される外部空間によって、オーナー家族と賃貸住宅に住む住民は、あたかもひとつの大家族を構成しているような、居心地のよさと安らぎを感じさせます。
事実、賃貸住宅居住者同士の交流によって一組のカップルができ、住居を広いところに移って住み続けているとも聞きました。オーナーの子どもたちも大きくなったら、独立してこの賃貸住宅に移り住むことも視野に入っています。
外部に差し出されたコンクリートの庇やベンチなどの設えによって、近隣住民をやさしく迎えたり、子どもたちの遊びのきっかけを作るなど、周辺環境を拒絶するのではなく、無理なく繋がっていく設計になっています。このような内外空間のスムーズな連続は、なにか昔懐かしい長屋の親しい人間関係を思い起こさせます。殺伐とした都市に暖かく息づく、ひとつの桃源郷のような住空間の現代的モデルとして高く評価したいと思います。
(栗生 明) |