この作品は、東京都心の四谷駅にほど近い六番町に位置する46戸の50年定期借地権付き分譲共同住宅である。周辺にはビジネス街や高級住宅街があり、町名の由来となった江戸の武家屋敷の町割り街区が今も残る一区画、緑豊かで閑静な住宅地にある。南側道路に面して南北に長方形の敷地の中程に建物を配置し、もとから土地にあった道路脇の桜を残しながらまわりを樹木や草花で囲うことから計画が始まっている。 設計者は、ゆとりのある良質な居住環境をテーマとして、建物の所々に入江状の中庭を設け、奥行のあるバルコニーなどの手法で最大限に敷地内外の緑や光といった自然を取り込むことで成立させている。共同住宅といえば均質で無表情になりがちな形態をもつものが多いが、ここでは六層の2mも張り出したスレンダーなバルコニーの出を持つ外観は、水平が強調され古来からの五重塔のような伸びやかな豊かさ、安定感のある表情があり、また特にランダムに並べられた縦格子のロートアルミ手すりが一層建物全体の印象を際立たせ、固有で美しい表情を与えている。住戸プランでは、どの住戸も開放感のある空間を得るために階高や天井高さ、柱間を最大化し、広いバルコニーと三面開口を確保しながら、たっぷりとした採光と通風を取り入れるなど自然豊かな居住性能が読み取れる。人の気配を感じさせない佇まいではあるが、周囲のまちなみ景観を十分に取り込み調和のとれた作品として秀作である。
(福島 賢哉) |