国立の一橋大学キャンパスのグランドの片隅の緑濃い景観の中にこの建築は位置している。大学空手部のOBの寄付によって建てられたというこの建築は空手道場と付属更衣室のみという極めてシンプルな構成で、通常なら単純な体育会クラブ室となるところを設計者は様々なアイデアを盛り込んで魅力的な建築に仕立て上げた。 キャンパスのはずれにあり隣接する住宅地に近い為遮音が必要であり開放的に作ることはできない。又空手道場としては充分な換気が必要となり且つ機械設備による多大な負荷に頼ることは望ましくない。その為に切妻屋根を4等分に分割し少しずつずらす事によって出来る北面に大きな採光窓をとり南面に通風ガラリを設けた。北面からのハイサイドライトは一日中柔らかな光を道場内に溢れさせ、南面のガラリから取り込んだ風を床下のピットに送り込み冷風として道場床から吹出して屋根面のガラリから放出させるという手法によって効率的なパッシーブソーラーを実現させている。分割された切妻屋根は鉄骨架構の上に木造和小屋を乗せる形で構成し道場内に変化する屋根形状とハイサイドライトの組み合わせでさわやかな空間を実現している。又リズミカルな屋根形状は外壁の素材と一体となってこの建築を強く印象づけている。若い設計者が意欲的に取り組んだ清新な印象を与える作品である。
(岡本 賢) |