この学校は、関東大震災後の復興小学校として85年前に建設された小学校が建て替えられたものである。敷地は当時のままであり、他の都心に建つ学校と同様、周囲は自動車が行きかう道路に囲まれ、中高層建築が密集した狭小敷地である。学校用地としては決して恵まれた環境とはいえないその場所に、各種教室はもとより、体育館、プール、グランドなど、小学校に必要な施設のすべてを揃えた上に保育園を併設しているため、建蔽率が80%に及んでいる。ここではこうした悪条件が、設計上のいろいろな工夫を引き出す役割を果たしているかのように見える。 まず屋外での活動が制限されていることから、屋内で上履きのまま生徒が活発に活動できるような工夫がされている。例えば校舎外周の周回できるバルコニー、植物を栽培し観察するためのテラス、校舎のほぼ中央部に設けられた緩やかな階段、廊下など、それぞれが広くユッタリとした空間構成となっていて、生徒の活発化な行動を促すことに成功している。 また屋外に面した随所に植栽された植物や、道路を挟んで隣接する緑豊かな震災復興公園に沿って広いエントランス階段を設けることで、校庭の緑の少なさを補っている。さらに震災復興小学校当時の昇降口は階段の一部が修復され、新校舎にそのまま組み込まれていることにも好感が持てる。
以上のような様々な工夫が丁寧に活かされた設計は、その力量を十分感じさせるものである。
(金田 勝徳) |