多様な働き方
取組事例の紹介
自らのアイデアや創造性を生かして、顧客やプロジェクトを獲得していくやりがいに溢れる建築設計の仕事。設計業務はほぼすべてがクライアントからの受注ベースで、プロジェクトの進行もクライアントの都合に合わせざるを得ない面があります。 一方、「働き方改革」に取り組み、働きやすい職場づくりを通じて、建築士一人ひとりのライフステージに配慮した働きやすさを実現する事務所も徐々に出てきています。ここでは、その3つの事例をご紹介します。
01 株式会社フレイム一級建築士事務所 小規模事務所の良さを活かしたフレキシブルな働き方
勤務時間の見直しに成功している男性建築士
株式会社フレイム一級建築士事務所は、小俣忠義所長と所員の金子有太さんの2名から成る建築士事務所。業務は主に住宅の設計のほか、住民主体のまちづくりを支援しています。
「以前は残業も多く、仕事が最優先の働き方でした」と話す、所員の金子さん。しかし2年ほど前から、労働時間を朝9時から午後5時までに見直しました。金子さんが、朝夕の保育園への子どもの送り迎えを分担するようになったためです。
「パートナーの産休が終わり職場に復帰することをきっかけに、『子育ての役割分担』が変わりました。意識的に『働き方改革』を行ったというよりも、自然な流れで会社/家庭の時間配分が調整されました」と語る金子さん。子育てにより多く関わることで、生活の質が向上したとも感じているそうです。
「子育て参加の経験は、今後の住宅設計にも長い目で見てプラスになることを実感しています」 (金子さん)
金子さんは、設計の仕事に不可欠な「腰を据えて考える作業」は土日に確保するなど、事務所としての仕事量や利益を調整しながら、柔軟な働き方を実践しています。小俣忠義所長もともに勤務体制について検討を重ね、「就業バランスを考える良いきっかけになった」と話します。小規模な事務所であるからこそ綿密なコミュニケーションがとりやすく、お互いが理解し合える臨機応変な「働き方改革」ができる強みがあるのです。
また、金子さんの場合は、事務所と自宅が近いという「職住近接」であること、自宅近くに病気にかかった子どもでも預かってくれる「病児保育ルーム」があることなど、さまざまな好条件が整っていたことも、現在の働き方を可能にしている要因として挙げています。
02
株式会社山下設計
全国規模の大手事務所が
実現した働き方改革
ワークライフバランスの改善で、建築作品のクオリティも向上
2020年で創立92年を迎える、株式会社山下設計。全国に展開する支社も合わせて約450名の社員を有し、このうち東京本社には約330名(うち、技術系社員は約290名)が在籍しています。「働き方改革関連法」の罰則も含めた、すべての規制が適用される企業規模となります。
山下設計では「働き方改革関連法」の施行を受けて、社員のオーバーワークの有無を徹底して管理する体制をスタートさせました。
まずは社員個々の勤務状況について、社内の組織単位で報告を義務付けています。それと並行して総務部門でも、パソコンの稼働時間をベースに勤務状況をモニタリング。ダブルでのリアルタイム情報を通して、個人やプロジェクトに発生している異常を早い段階で把握します。個々のプロジェクトへの適切なマネジメント・臨機応変な配員増強を通じて「ワークライフバランスの改善」に取り組んでいます。しかし建築設計事務所が、所員の業務時間を強制的に制限することについて、当初は「自発的な業務意欲を削ぐのではないか」「作品の質を落とすことになりはしないか」などの懸念が多かったといいます。しかしここ数年は、BCS賞をはじめとする各種建築賞に選定される作品も増加。「ワークライフバランスの改善」が作品のクオリティ向上につながる好循環が生まれてきています。
山下設計が取り組む働き方改革の、もうひとつの柱が「女性社員の職務環境整備」です。東京本社に在籍する技術系女性社員は約60名と、全体の約2割を占め、今後もその比率は増加の見込み。2018年には初めて女性の執行役員も誕生しました。
しかし全管理職中の女性の比率は3.3%と低水準にとどまります。この課題に対して山下設計では、産休・育休制度に加えて、時差出勤、就業時間短縮、残業時間の制限など、さまざまな制度の整備を続けてきました。各制度とも、社員とその家族も含めて、妊娠中から子どもが小学校低学年に至るまでの、育児と仕事の両立をサポートするものです。コンスタントに年間4~5名程度の社員が、これらの制度を利用しています。
03
有限会社 窪田建築都市研究所
良好な関係づくりからはじまる、
自然なワークライフバランス
良好な人間関係からつくられる、男女差のない働き方
2003年に設立され、建築とインテリア設計を中心領域としている有限会社 窪田建築都市研究所。「建築で街に誇りをつくり、商業で街を潤す」をビジョンに活動し、現在の体制は15名(管理職2名、男性技術系スタッフ9名、女性技術系スタッフ3名、広報・秘書の女性スタッフ1名)。全体の4分の1が女性スタッフです。
「デザインが好き! 人とつながることが好き! でコミュニケーションを大切に考え、一緒にものをつくり上げるメンバーを性別に関係なく採用し、フラットな環境づくりを心がけています」と話すのは、取締役チーフアーキテクトの宮尾宣央さん。広報担当の佐藤未知子さんは、窪田建築都市研究所のポリシーを「人が財産。人があって・会社があり・仕事を生む」と表現します。
スタッフ同士のコミュニケーションが取りやすくなるよう、事務所内にはカフェカウンターを設けていますが、業務にも多くの工夫が見られます。例えば、2週に1度の業務報告の後に、全員が5分間のプレゼンテーション。スタッフの興味、こだわりを話す機会を設けて、プレゼン力UPにも役立てているといいます。
またスタッフの誕生日会や、事務所にクライアントを招待しての花見会も開催。会社のリクリエーション行事の希望アイデアを社員に募ったり、社員の家族も一緒に陶芸を楽しんだことも。企業や雇用関係のイメージを超えた、人同士のつながりによるフラットな関係性が構築されています。
会社のホームページも仕事の完成形を並べるだけではなく、仕事に取り組むスタッフの思いが伝わるつくりが特徴。新入社員が働く様子までを具体的に「見える化」しており、若いスタッフがやりがいを感じ、意欲的にスキルアップできる体制がつくられています。
スタッフ年齢の若い事務所であり、現在は建築チームとインテリアチームの男性チーフアーキテクト2名が子育て中。男性スタッフも保育園への送迎、学校行事と子育てを楽しんでいます。就業規則は検討中とのことですが、若いデザイナーが才能を磨きながら楽しく働ける環境と関係性をベースに、ライフイベントにおいても男女差のない働き方を実践している事例です。